競馬・ボートレースの払戻金はなぜ「一時所得」?外れ馬券が経費にならない理由を税理士が解説
2026/10/30
ブログ記事をご覧いただきありがとうございます。
吉村税理事務所スタッフの佐々木です。
「万馬券が当たった。これって税金かかるの?」
「年間トータルでは負けているのに、当たった分だけ課税されるって本当?」
競馬・競輪・ボートレース(公営競技)で思わぬ払戻金を手にしたとき、多くの方がこの疑問にぶつかります。
結論から言うと、これらの払戻金は原則として 「一時所得」 として課税対象になり、しかも 負けた分(外れ馬券)は基本的に経費として差し引けません。
「なぜ勝った分だけ?」という感覚的な不公平感は、所得税法のしくみを知ると理由がはっきりします。
この記事では、広島・安佐南区の吉村税理士事務所が、
払戻金が一時所得になる理由・経費の範囲・そして例外的に扱いが変わった最高裁判例まで、順を追って解説します。
そもそも「一時所得」とは?10種類の所得の中での位置づけ
所得税では、個人の所得を性質ごとに10種類に分類します(給与所得・事業所得・不動産所得など)。
このうち 一時所得 は、所得税法34条で次のように定められています。
一時所得とは、利子所得から譲渡所得までのいずれにも該当しない所得のうち、
営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、
労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの(所得税法34条1項・要約)
ポイントは3つです。
- ・継続的・営利目的の事業ではない
- ・働いた対価(給与など)ではない
- ・モノを売った対価(譲渡)ではない
競馬の払戻金は、まさにこの「どれにも当てはまらない、一時的・偶発的な収入」の典型例です。だから原則として一時所得に区分されます。
一時所得になるもの・ならないものの早見表
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収入の種類 |
課税の扱い |
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競馬・競輪・ボートレース・オートレースの払戻金 |
一時所得(原則) |
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生命保険の満期返戻金(一時金) |
一時所得 |
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懸賞・福引の賞金品 |
一時所得 |
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宝くじの当せん金 |
非課税(当せん金付証票法) |
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スポーツ振興くじ(toto・BIG)の払戻金 |
非課税(スポーツ振興投票法) |
ここは検索ユーザーが最も混同するポイントです。
宝くじ・totoは法律で非課税と定められているため申告不要ですが、競馬などの公営競技は非課税規定がなく、課税対象です。
「ギャンブルの払戻金は全部非課税」と誤解したまま無申告になると、あとで加算税・延滞税のリスクがあります。
一時所得の税金はいくら?計算式と「2分の1」のしくみ
一時所得の金額は、次の式で計算します。
一時所得の金額 = 総収入金額 −(その収入を得るために支出した金額)− 特別控除額(最高50万円)
さらに、一時所得は その2分の1だけ を他の所得(給与など)と合算して課税します(総合課税)。
計算例|当たり馬券100万円・その馬券の購入費1万円の場合
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項目 |
金額 |
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払戻金(総収入金額) |
1,000,000円 |
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当たった馬券の購入費 |
△10,000円 |
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特別控除 |
△500,000円 |
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一時所得の金額 |
490,000円 |
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課税対象(×1/2) |
245,000円 |
この245,000円が、給与など他の所得に上乗せされて税率がかかります。
つまり、年間の払戻金の合計から当たった馬券の購入費などを引いた残りが50万円以下なら、
一時所得はゼロ になり、原則として申告は不要です。
「たまに数万円当たる程度」の方が全員申告対象になるわけではない、という点は押さえておきましょう。
核心|なぜ「外れ馬券」は経費にできないのか
ここが本記事の最重要ポイントです。多くの方が納得できないのが、
「年間トータルでは負けているのに、当たった分だけ課税される」 という点でしょう。
その答えは、先ほどの計算式の「その収入を得るために支出した金額」という文言にあります。
所得税法34条2項は、控除できる支出をこう限定しています。
その収入を得るために支出した金額
(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)(所得税法34条2項・要約)
カギは 「直接要した金額に限る」 という部分です。
- ・100万円の払戻しを生んだのは、当たった1枚の馬券です。
- ・その払戻しを得るために「直接」必要だったのは、その当たり馬券の購入費だけ。
- ・同じレースや別レースで買った 外れ馬券は、その100万円を得るために直接必要だったわけではない ——これが法律の考え方です。
経費(事業所得・雑所得)であれば「収入に対応する費用」として外れ分も含められますが、
一時所得で引けるのは「直接要した金額」だけ。だから外れ馬券は原則として控除できないのです。
趣味・レジャーとして馬券を買っている限り、外れ馬券は何枚あっても経費にならない。これが大原則です。
例外|外れ馬券が経費と認められた最高裁判例
では、外れ馬券が経費として認められるケースは一切ないのか——。
実はここで、税務の世界で非常に有名な2つの最高裁判決が登場します。
いわゆる 「外れ馬券事件」 です。
① 最高裁 平成27年3月10日判決(大阪・会社員のケース)
市販の競馬予想ソフトを使い、インターネットで 長期間・網羅的・機械的に大量の馬券を自動購入 し、
年間を通じて継続的に多額の利益を上げていた会社員の事案です。
最高裁は、この馬券購入は「営利を目的とする継続的行為」にあたると判断。
その払戻金は一時所得ではなく 「雑所得」 に該当するとしました。
雑所得であれば、外れ馬券も含めた全馬券の購入費が必要経費になります。
② 最高裁 平成29年12月15日判決(北海道・個人のケース)
市販ソフトを使わず、自分で設定した条件に基づいてほぼすべてのレースを対象に、長期間・多数回・継続的に馬券を購入していた事案です。
こちらも、購入のしかたが継続的・恒常的で営利目的と評価でき、雑所得にあたると判断されました。
ソフトの有無そのものが決め手ではなく、「馬券購入の期間・回数・頻度・態様から、営利目的の継続的行為といえるか」
が判断の軸になったことを示した点で重要な判決です。
なぜ「普通の人」は雑所得にならないのか
これらの判決を受けて、国税庁も通達を見直し、
- 一定の継続性・網羅性・回収可能な態様で購入している ごく例外的なケース → 雑所得(外れ分も経費)
- 一般的な趣味・レジャーとしての購入 → 一時所得(外れ分は経費にならない)
という整理が定着しました。
つまり、週末に好きなレースを楽しむレベルの購入は、どれだけ負けていても一時所得のまま。
判例はあくまで「ほぼ事業と言えるほど徹底的・継続的にやっていた極めて例外的な人」に適用されたもので、ハードルは相当高いと理解してください。
競馬・ボートレースの払戻金、申告が必要になるのはどんな人?
一時所得の2分の1課税をふまえると、確定申告が必要になりやすいのは次のような方です。
- ・給与所得者で、一時所得を含む給与以外の所得が年間20万円を超える 人
- ・個人事業主など、もともと確定申告をする人(金額の多少にかかわらず合算が必要)
- ・高額の払戻金(万馬券・高配当)を得て、当たり馬券の購入費と特別控除50万円を引いても所得が残る人
逆に、会社員で払戻金の一時所得が少額(他の所得と合わせて20万円以下)であれば、申告不要となる場合もあります。
判断に迷う金額のときは、自己判断で済ませず専門家に確認するのが安全です。
よくある質問(FAQ)
Q. 年間で見ると負けています。それでも申告が必要ですか?
A. 原則として必要になり得ます。一時所得は「当たった払戻金 −その当たり馬券の購入費 − 特別控除50万円」で計算し、外れ馬券は含めません。
トータルの損益ではなく、当たった分だけで判定するのがポイントです。
Q. パチンコ・パチスロの換金も一時所得ですか?
A. 理論上は一時所得に区分されますが、公営競技のように購入・払戻しの記録が残りにくい性質があります。
扱いに不安がある場合は個別にご相談ください。
Q. 宝くじが当たったら税金はかかりますか?
A. かかりません。宝くじは当せん金付証票法で非課税と定められています。
toto・BIGなどのスポーツ振興くじも同様に非課税です。公営競技の払戻金とは扱いが異なります。
Q. 自分の馬券購入が「雑所得(外れ分も経費)」に当たるか知りたいです。
A. 判例で雑所得と認められたのは、ソフト等を使い長期間・網羅的・継続的に購入していた極めて例外的なケースです。
週末に楽しむレベルであれば一時所得が原則です。
該当しそうな購入実態がある場合は、記録を整えたうえでご相談ください。
【広島の事業者の方へ】こんなケースは要注意
当事務所(安佐南区)でも、広島市内の経営者の方から次のようなご相談を受けることがあります。
- 接待・交際の一環でボートレース(宮島・徳山など中国地方は競艇が身近)に行き、高配当が出た ——このとき会社の経費と個人の一時所得が混同されやすい。法人カードで舟券を買っても会社の経費にはならず、個人の一時所得の問題になります。
- 事業が好調な社長が趣味で大きく張っている ——「事業の延長で経費にできないか」と考えがちですが、
- 前述のとおりハードルは極めて高く、原則は一時所得です。
ギャンブルの払戻金は、金額が大きくなるほど税務上のインパクトも大きくなります。
「当たったあとにどう処理するか」で手取りが変わるため、高配当を得た年は早めに相談 されることをおすすめします。
まとめ
- 競馬・競輪・ボートレース等の払戻金は、原則 一時所得。宝くじ・totoは 非課税。
- 一時所得は「払戻金 − 当たり馬券の購入費 − 特別控除50万円」で計算し、その2分の1 が課税対象。
- 外れ馬券が経費にならないのは、所得税法34条2項が控除を「直接要した金額」に限っているため。
- 外れ馬券が経費になるのは、最高裁判例(平27・平29)が認めた 営利目的・継続的な極めて例外的なケース(雑所得) のみ。
- 高配当を得た年は、手取りが変わるため早めの確認が有効。
【執筆者】この記事を書いた人
執筆者:佐々木笙
吉村税理士事務所のスタッフ。お客様に役立つ税金の知識を分かりやすくお伝えします。
【監修者】この記事を監修した人
監修者:吉村 匡史(吉村税理士事務所 代表税理士/税理士登録番号 第135285号)
広島市で税理士事務所を開業して約9年。現在60社の顧問先を担当。
【専門分野】会社設立・創業融資/資金繰り改善/財務コンサルティング
日本政策金融公庫・地元金融機関との連携による創業融資支援を得意とし、
これまでに約50件の創業をサポート。
「数字がわかると、経営判断は驚くほどラクになります。
決算書を"提出するための書類"で終わらせず、次の一手を決める材料に
変えていただくことを大切にしています。」
▶ 吉村匡史のくわしいプロフィールは>>はこちら
▶ YouTubeチャンネル「吉村税理士の【お金の羅針盤】経営者のための税務・会計ガイド」で税金の話を発信中
根拠法令・参考:所得税法34条(一時所得)/国税庁タックスアンサー No.1490(一時所得)/最高裁平成27年3月10日判決・最高裁平成29年12月15日判決(いわゆる外れ馬券事件)/当せん金付証票法/スポーツ振興投票の実施等に関する法律
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吉村税理士事務所
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