役員報酬は期中に変更できる?認められる3ケースと損金リスク
2026/09/15
「今期は業績が伸びたので、役員報酬を上げたい」 「反対に、売上が落ち込んできたので下げたい」
広島市内で会社を経営されていると、期の途中でこう考える場面は少なくありません。しかし役員報酬は、従業員の給与や外注費のように「必要になったから変える」というわけにはいきません。変更のタイミングと理由を誤ると、増やした分・減らした分が会社の経費(損金)として認められず、余計な法人税がかかることになります。
この記事では、役員報酬を期中に変更できる例外的なケースと、認められない変更をしてしまった場合の税務リスクについて、広島市安佐南区の吉村税理士事務所が実務目線で解説します。
原則:役員報酬(定期同額給与)は期中に変更できない
まず大前提として、役員報酬は事業年度の途中で自由に変更することはできません。これは法人税法で、損金にできる役員給与が次の3種類に限定されているためです(法人税法第34条)。
- 定期同額給与:毎月同じ金額を支給する給与
- 事前確定届出給与:支給時期・金額を事前に税務署へ届け出た給与(役員賞与など)
- 業績連動給与:主に上場企業などが対象
中小企業の役員報酬は、そのほとんどが「定期同額給与」です。文字どおり「定期的に・同額を」支払うことが条件なので、期の途中で金額を動かすと、この要件から外れてしまいます。
なぜ期中の変更が制限されるのか
役員は、自分の報酬額を自分たちで決められる立場にあります。もし自由に変更できてしまうと、「利益が多く出そうな決算前に役員報酬を増額して利益を圧縮する」といった、いわゆる“お手盛り”による利益操作が可能になってしまいます。
これを防ぐため、役員報酬は原則として期首に決めた金額を1年間固定するルールになっています。従業員の給与とは扱いがまったく異なる、という点をまず押さえてください。
期中の変更が認められる3つのケース
とはいえ、いかなる場合も変更できないわけではありません。次の3つに該当すれば、期中の改定でも損金算入が認められます。
① 定時株主総会などによる改定(通常改定)
もっとも一般的なのが、定時株主総会で役員報酬を決め直すケースです。認められるのは事業年度開始の日から3か月以内の改定です。
たとえば3月決算の会社であれば、5月〜6月に開催する定時株主総会で新年度の役員報酬を決定します。これは厳密には「期の途中」ではなく「期首の見直し」にあたります。
注意したいのは、この3か月を過ぎてからの増額は原則として認められないという点です。「決算数字が固まってから決めよう」と先延ばしにすると、変更のチャンスを逃すことになります。
② 臨時改定事由による改定
役員の地位や職務に大きな変化があった場合は、期中でも改定が認められます。具体的には次のようなケースです。
- 役員の職制上の地位の変更(例:取締役から代表取締役への昇格)
- 役員の職務内容の重大な変更
- その他、これらに準ずるやむを得ない事情
たとえば「代表者が病気で長期入院し、別の役員が代表業務を引き継ぐことになった」といった場合が該当します。単なる担当替えではなく、責任や職務の範囲が大きく変わることがポイントです。
③ 業績悪化改定事由による改定
経営状況が著しく悪化した場合、役員報酬を「減額」する改定が認められます。ここで重要なのは、認められるのは原則として減額のみで、増額は認められないという点です。
国税庁は、業績悪化改定事由の典型例として次の3つを挙げています。
- 株主との関係上、経営責任から役員報酬を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との借入金返済のリスケジュール協議のなかで、減額を求められた場合
- 取引先など利害関係者からの信用を維持するため、経営改善計画に役員報酬の減額を盛り込んだ場合
ここで多くの経営者が誤解しがちなのが、「利益が減りそうだから」「一時的に資金繰りが苦しいから」といった理由では認められないという点です。詳しくは後述しますが、業績悪化改定事由は、客観的に見て経営が著しく悪化している場合に限られる、ハードルの高い規定です。
【比較表】増額・減額で異なる税務上の取り扱い
| 変更内容 | 認められる主なケース | 認められない場合の扱い |
|---|---|---|
| 増額 | ・定時株主総会等(3か月以内) ・臨時改定事由(昇格など) |
増額した「上乗せ分」が損金不算入 |
| 減額 | ・定時株主総会等(3か月以内) ・臨時改定事由 ・業績悪化改定事由 |
減額前の「超過分」が損金不算入 |
減額のほうが、認められる事由が1つ多いのが特徴です。一方で、いずれの場合も「認められない変更」をすると、思わぬ形で損金不算入が発生します。次章で具体的に見ていきます。
認められないのに変更した場合の税務リスク
正当な事由なく役員報酬を変更すると、変更額の全部または一部が損金不算入となります。増額・減額それぞれで扱いが異なります。
増額改定:上乗せした分が損金不算入に
たとえば、正当な事由がないまま月50万円の役員報酬を、期の後半6か月間だけ月80万円に増額したとします。この場合、増額した差額30万円が定期同額給与とは認められません。
- 30万円 × 6か月 = 180万円が損金不算入
増額前の50万円は毎月一定なので損金算入できますが、上乗せした部分だけが否認される、というイメージです。
減額改定:減額前の超過分が損金不算入に
減額の場合は少し直感に反します。正当な事由なく、期の前半6か月間は月80万円だった役員報酬を、後半から月50万円に減額したとします。この場合、1年を通じて一定額とみなせるのは低いほうの50万円です。したがって、減額前に上乗せして払っていた差額30万円が否認されます。
- 30万円 × 6か月(減額前の期間)= 180万円が損金不算入
「報酬を下げたのに、下げる前の超過分まで否認されるのか」と驚かれる方も多いところです。減額のタイミングと理由には特に注意が必要です。
事前確定届出給与はさらに厳しい
役員賞与などで使う事前確定届出給与は、扱いがより厳格です。届け出た金額・支給時期と1円でも、1日でもずれると、その全額が損金不算入になります。「差額だけ否認」で済む定期同額給与とは異なる点に注意してください。
実質的な“二重課税”になる怖さ
損金不算入のもっとも痛いところは、税負担の二重取りが起きることです。
- 会社側:役員報酬を損金にできない → その分だけ利益が増え、法人税がかかる
- 役員個人:受け取った報酬には、通常どおり所得税・住民税がかかる
つまり、同じお金に対して「法人税」と「所得税」の両方がかかる、実質的な二重課税と同じ負担が生じます。手元にお金が残らないうえに税金だけ増える、という最悪の結果を避けるためにも、変更の可否は事前の確認が欠かせません。
「業績悪化改定事由」の認められる・認められない境界線
3つの事由のなかで、実務上もっとも判断が難しく、税務調査でも論点になりやすいのが業績悪化改定事由です。境界線を具体例で整理します。
認められやすいケース
- 取引銀行とのリスケ協議で、返済条件見直しの前提として役員報酬の減額を求められた
- 主要取引先の倒産・撤退で売上が大きく落ち込み、経営改善計画に減額を明記した
- 財務状況の悪化を受け、オーナー(株主)としての経営責任から減額した
認められにくいケース
- 「今期は利益が減りそう」という予測だけで減額した
- 節税目的で、決算対策として役員報酬を動かした
- 一時的に資金繰りが厳しいだけで、財務状況全体は悪化していない
ポイントは、「主観的な見通し」ではなく「客観的・第三者的に見た著しい悪化」があるかどうかです。減額を検討する際は、減額に至った経緯を株主総会議事録などにきちんと残しておくことも、後の税務調査への備えになります。
見落としがちな社会保険料への影響
役員報酬の変更は、税務だけの問題ではありません。報酬額が変わると標準報酬月額も変わり、健康保険料・厚生年金保険料にも影響します。
固定的賃金の変動によって標準報酬月額が2等級以上変わる場合は、「随時改定(月額変更届)」の対象となり、年金事務所への届出が必要です。役員報酬を変更する際は、税務と社会保険の両面から手続きを確認しておきましょう。
【広島の事業者向け】役員報酬の変更は事前相談が鉄則
ここまで見てきたとおり、役員報酬の期中変更は「変更できるかどうか」だけでなく「いつ・どんな理由で・いくらにするか」で税負担が大きく変わります。
広島市安佐南区の吉村税理士事務所では、会社設立から融資、日々の税務まで、地域の中小企業の経営を数多くサポートしてきました。製造業・建設業・飲食業など、業種によって業績変動の事情はさまざまです。特に、取引銀行とのリスケ協議に伴う減額など、融資と密接に関わる場面では、金融機関への見せ方まで含めた判断が求められます。
「業績が悪化してきたので役員報酬を見直したい」「昇格に合わせて増額したい」といったご相談は、変更を実行する“前”のタイミングでいただくのが鉄則です。役員報酬の変更をご検討中の広島の経営者の方は、吉村税理士事務所までお気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 役員報酬は年に何回まで変更できますか?
A. 回数そのものに上限はありませんが、損金算入が認められるのは、定時株主総会等による改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由に該当する場合に限られます。正当な事由のない変更は、その都度、損金不算入のリスクを伴います。
Q. いったん減額した役員報酬を、同じ期のうちに元に戻せますか?
A. 業績悪化で減額したあと、業績が回復したからと同一事業年度内に増額で元へ戻すのは、原則として認められません。増額分が損金不算入となる可能性が高いため、慎重な判断が必要です。
Q. 決算対策として期末に役員報酬を増やすのはダメですか?
A. 定時株主総会等による改定(3か月以内)や臨時改定事由に該当しない期末の増額は、損金として認められません。利益調整を目的とした変更は、まさに定期同額給与のルールが防ごうとしているケースにあたります。
Q. 役員報酬をゼロ(無報酬)に変更することはできますか?
A. 可能ですが、これも変更である以上、時期と理由が問われます。特に期中に無報酬化する場合は、業績悪化改定事由などに該当するかがポイントになります。
【執筆者】この記事を書いた人
執筆者:宍戸幸輔
吉村税理士事務所のスタッフ。お客様に役立つ税金の知識を分かりやすくお伝えします。
【監修者】この記事を監修した人
監修者:吉村 匡史(吉村税理士事務所 代表税理士/税理士登録番号 第135285号)
広島市で税理士事務所を開業して約9年。現在60社の顧問先を担当。
【専門分野】会社設立・創業融資/資金繰り改善/財務コンサルティング
日本政策金融公庫・地元金融機関との連携による創業融資支援を得意とし、
これまでに約50件の創業をサポート。
「数字がわかると、経営判断は驚くほどラクになります。
決算書を”提出するための書類”で終わらせず、次の一手を決める材料に
変えていただくことを大切にしています。」
▶ 吉村匡史のくわしいプロフィールは>>はこちら
▶ YouTubeチャンネル「吉村税理士の【お金の羅針盤】経営者のための税務・会計ガイド」で税金の話を発信中
参考・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」
- 国税庁 質疑応答事例「業績悪化改定事由による定期給与の額の改定」
- 法人税法第34条/法人税法施行令第69条
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吉村税理士事務所
広島県広島市安佐南区祇園5丁目4−33
電話番号:082-578-0670
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