社員へのお祝い金・見舞金は経費にできる?慶弔規程の作り方も解説
2026/08/26
「社員が結婚したのでお祝い金を渡したい」「入院した従業員にお見舞いを包みたい」——こうした慶弔金は、会社の経費(福利厚生費)にできます。ただし、正しく処理するには慶弔規程(慶弔見舞金規程)の整備が欠かせません。規程がないまま支給すると、経費として認められなかったり、受け取った社員に思わぬ税金がかかったりするケースもあります。
この記事では、広島市安佐南区の吉村税理士事務所が、社員への慶弔金を経費にするための3つの要件、勘定科目、税金の取り扱い、そして慶弔規程の作り方までを実務目線で解説します。
社員への慶弔金は「福利厚生費」として経費にできる
結論から言うと、社員へのお祝い金や見舞金は、次の3つの要件を満たせば全額を福利厚生費として損金算入(経費計上)できます。
- 慶弔規程を整備し、全社員を対象としていること
- 規程で定めた基準どおりに支給していること
- 支給額が社会通念上相当な金額であること
この3つがそろっていれば、会社は経費にでき、受け取った社員側も所得税がかからない(非課税)という、双方にメリットのある処理になります。逆に、要件を満たさない支給は「給与(賞与)」とみなされます。ここが慶弔金の処理で最もつまずきやすいポイントです。
慶弔金の種類と勘定科目一覧
慶弔金は「誰に渡すか」で勘定科目が変わります。
| 支給の相手 | 具体例 | 勘定科目 |
|---|---|---|
| 社員・その家族 | 結婚祝い、出産祝い、傷病見舞金、災害見舞金、香典・弔慰金 | 福利厚生費 |
| 取引先・社外の関係者 | 取引先への香典、開店祝い、お中元・お歳暮 | 交際費 |
本記事のテーマである「社員への慶弔金」は、原則として福利厚生費で処理します。取引先など社外への慶弔費は交際費となり、損金算入に上限(中小企業は年800万円まで等)があるため、区別が重要です。
【要注意】規程がないと「給与」扱いになる
福利厚生費にできるかどうかの分かれ目は、「社内ルール(慶弔規程)に基づいた公平な支給か」です。次のケースは、給与(賞与)とみなされ課税対象になる恐れがあります。
- 慶弔規程がなく、社長の判断でその都度金額を決めている
- 特定の役員や一部の社員だけを優遇している
- 世間相場からかけ離れた高額を支給している
役員への支給は特に注意
特に注意したいのが役員への支給です。規程がないまま役員にだけ高額な慶弔金を出すと、「役員賞与」と認定され、会社の経費として認められない(損金不算入)うえに、役員個人にも所得税・住民税がかかる——という二重の不利益が生じます。
広島でも多い家族経営・同族会社では、「社長の親族=役員」というケースが少なくありません。身内だからと支給がなあなあになりがちですが、税務調査で最も指摘されやすい論点の一つです。規程による線引きが、そのままリスク対策になります。
【計算例】規程がないまま役員にだけ10万円を支給したら
- 会社:役員賞与と認定されると、この10万円は損金不算入。法人実効税率を約30%と仮定すると、法人税等が約3万円増える計算です。
- 役員個人:受け取った10万円は給与所得となり、本人の税率に応じた所得税・住民税がかかります。
一方、全役員・全社員に共通する慶弔規程を整え、相当額(例:結婚祝金3万円)にとどめていれば、会社は福利厚生費として損金算入でき、本人も非課税です。同じ「お祝い」でも、規程の有無で会社・個人の双方の税負担が変わります。
社員が受け取る慶弔金に税金はかかる?
社会通念上相当な範囲の慶弔金であれば、受け取った社員に所得税はかかりません(非課税)。香典・災害見舞金などは、所得税基本通達9-23で非課税と定められています。
死亡弔慰金には非課税限度がある
ただし、社員本人が亡くなった場合に会社から遺族へ支払う「死亡弔慰金」には、非課税となる金額に上限があります。
- 業務上の死亡:死亡当時の普通給与の3年分まで非課税
- 業務外の死亡:死亡当時の普通給与の6か月分まで非課税
この上限を超えた部分は「退職手当金等」として相続税の課税対象になります(相続税法基本通達3-20)。金額が大きくなりやすいため、弔慰金を支給する際は必ず上限を確認してください。
【計算例】業務外で亡くなった社員の弔慰金
- 亡くなった社員の普通給与(賞与を除く月額給与):30万円
- 業務外の死亡 → 非課税限度=普通給与 × 6か月=180万円
- 会社が遺族に支給した弔慰金:200万円
この場合、180万円までは非課税、超過分の20万円が「退職手当金等」として相続税の対象になります。
ただし退職手当金等には、別に「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。実際に亡くなった社員の死亡退職金などと合算して判定するため、この20万円だけで直ちに相続税がかかるとは限りません。
(比較)同じ社員が業務上の事由で亡くなった場合
非課税限度=普通給与 × 3年(36か月)=1,080万円。同じ200万円の支給なら全額が非課税です。
同じ弔慰金でも、業務上か業務外かで非課税の枠が大きく変わります。
消費税の扱い(現金と現物で違う)
慶弔金の消費税は、支給方法で扱いが変わります。
- 現金で支給する場合:対価性がないため不課税(消費税はかかりません)
- 記念品・品物で支給する場合:会社がその品物を購入した時点で課税仕入れになります
「現金なら不課税、モノなら課税仕入れ」と覚えておくと整理しやすいでしょう。
【ケース別】慶弔金の具体例・仕訳・税金の扱い
実際の場面ごとに、勘定科目・仕訳・税金の扱いを整理します。ポイントは「誰に渡すか」で科目が変わることです。
| ケース | 相手 | 勘定科目 | 会社の損金 | 本人の税金 | 消費税 |
|---|---|---|---|---|---|
| 結婚祝金 3万円 | 社員 | 福利厚生費 | 算入OK | 非課税 | 不課税 |
| 出産祝金 2万円 | 社員 | 福利厚生費 | 算入OK | 非課税 | 不課税 |
| 傷病見舞金 1万円 | 社員 | 福利厚生費 | 算入OK | 非課税 | 不課税 |
| 香典 1万円 | 社員(家族の弔事) | 福利厚生費 | 算入OK | 非課税 | 不課税 |
| 香典 3万円 | 取引先 | 交際費 | 年800万円枠の対象 | ― | 不課税 |
※いずれも規程に基づき、社会通念上相当な金額であることが前提です。
仕訳の具体例
社員の結婚祝金(現金3万円)
(借)福利厚生費 30,000 /(貸)現 金 30,000
社員の父が死亡し、社員へ香典(現金1万円)
(借)福利厚生費 10,000 /(貸)現 金 10,000
取引先の社長が死亡し、会社として香典(現金3万円)
(借)交際費 30,000 /(貸)現 金 30,000
注目すべきは、下2つです。同じ「香典」でも、社員の家族の弔事に対して会社が社員へ渡すものは福利厚生費、取引先の葬儀に会社として出すものは交際費になります。交際費には損金算入の上限(中小企業は年800万円まで等)があるため、この線引きを誤ると損金算入額に影響します。
香典は領収書が出ないため、出金伝票などで記録を残すことが欠かせません(記入例は後述します)。

慶弔規程の作り方【6つの記載項目】
慶弔金を確実に経費にするために、慶弔規程には最低限、次の6項目を盛り込みます。
- 目的:福利厚生の一環として慶弔金を支給する旨
- 適用範囲:対象者(役員・正社員・パート等)を明記
- 慶弔の種類と支給額:下表のように一覧化
- 支給の手続き:申請方法と必要書類(婚姻届の写し、死亡診断書、罹災証明書など)
- 支給時期:申請後◯日以内 など
- 附則:施行日
慶弔金の支給額の目安
支給額の目安(社会通念上相当とされる一般的な水準)は次のとおりです。
| 慶弔の種類 | 支給額の目安 |
|---|---|
| 結婚祝金 | 1万〜3万円 |
| 出産祝金 | 1万〜2万円 |
| 傷病見舞金 | 5千〜1万円(休業日数に応じて) |
| 本人死亡(遺族へ) | 勤続年数に応じて設定 |
| 家族(配偶者・子・父母)の死亡 | 5千〜2万円 |
| 災害見舞金 | 被害の程度に応じて |
金額はあくまで一例です。法律で決まった額はなく、「社会通念上相当」であることが基準となります。自社の規模や地域の実情に合わせて設定してください。
最も大切なのは、規程を作って終わりにせず、社内に周知し、実際にそのとおり運用することです。規程と支給実績が一致していて初めて、税務上「福利厚生費」として認められます。
支給申請書・出金伝票の記入例
慶弔金を福利厚生費として認めてもらうには、「規程どおりに支給した証拠」を残すことが重要です。実務でよく使う2つの書式の記入例を挙げます。
① 慶弔見舞金 支給申請書(記入例)
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 申請日 | 2026年6月10日 |
| 所属・氏名 | 営業部 広島 太郎 |
| 慶弔の種類 | 結婚祝金 |
| 事由発生日 | 2026年6月1日 |
| 対象者・続柄 | 本人 |
| 支給希望額 | 30,000円 |
| 添付書類 | 婚姻届受理証明書の写し |
| 承認欄 | 所属長 / 代表 |
② 出金伝票(記入例)── 香典など領収書が出ないケース
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 日付 | 2026年5月20日 |
| 勘定科目 | 福利厚生費 |
| 支払先 | 故 ○○○○ 儀(社員 安佐 花子 様 ご尊父) |
| 摘要 | 慶弔規程に基づく香典(社員家族の弔事) |
| 金額 | 10,000円 |
香典のように領収書が受け取れない支出でも、この出金伝票に加えて会葬礼状や訃報の記録を残しておけば、経費として問題なく認められます。
広島の中小企業からよくいただくご質問(FAQ)
Q. 従業員が一人もいない一人社長でも慶弔規程は作れますか?
A. 作成自体は可能ですが、対象が社長本人(役員)だけの場合、「役員への恣意的な支給」とみなされやすく、福利厚生費として認められにくいのが実情です。従業員がいない段階では慎重な判断が必要です。
Q. パート・アルバイトも対象に含めるべきですか?
A. 含めることをおすすめします。「全社員が対象」という要件を満たすうえでも、正社員だけに限定せず、パート・アルバイトも適用範囲に入れておくと安全です。
Q. お祝い金を現金ではなく商品券で渡してもいいですか?
A. 商品券での支給も可能ですが、換金性が高いため金額次第では給与とみなされることがあります。現金と同様、社会通念上相当な範囲にとどめるのが無難です。
Q. 香典を経費にする場合、領収書はどうすればいいですか?
A. 香典は領収書が出ないのが通常です。支給日・相手・金額・続柄などを記録した申請書や出金伝票を残しておけば問題ありません。
慶弔規程の整備は吉村税理士事務所にご相談ください
慶弔規程は、一度整備すれば毎年の慶弔金を安心して経費にできる、費用対効果の高い仕組みです。一方で、役員への支給や弔慰金の非課税限度など、判断を誤ると税務調査で指摘されやすい論点も含まれています。
広島市安佐南区の吉村税理士事務所では、御社の実情に合わせた慶弔規程の整備や、慶弔金の税務処理のご相談を承っています。 会社設立・融資支援に強い当事務所が、法人・個人問わずサポートします。
【執筆者】この記事を書いた人
執筆者:佐々木 笙
吉村税理士事務所のスタッフ。お客様に役立つ税金の知識を分かりやすくお伝えします。
【監修者】この記事を監修した人
監修者:吉村 匡史(吉村税理士事務所 代表税理士/税理士登録番号 第135285号)
広島市で税理士事務所を開業して約9年。現在60社の顧問先を担当。
【専門分野】会社設立・創業融資/資金繰り改善/財務コンサルティング
日本政策金融公庫・地元金融機関との連携による創業融資支援を得意とし、
これまでに約50件の創業をサポート。
「数字がわかると、経営判断は驚くほどラクになります。
決算書を”提出するための書類”で終わらせず、次の一手を決める材料に
変えていただくことを大切にしています。」
▶ 吉村匡史のくわしいプロフィールは>>はこちら
▶ YouTubeチャンネル「吉村税理士の【お金の羅針盤】経営者のための税務・会計ガイド」で税金の話を発信中
※本記事は2026年(令和8年)時点の情報をもとに、以下の資料を参照して作成しています。慶弔金の非課税限度額や勘定科目の取扱いは、法令・通達の改正により変更される場合があります。また「社会通念上相当な金額」に法律で定められた基準額はなく、会社の規模や個別の事情によって判断が分かれることがあります。実際の適用にあたっては、最新の情報をご確認のうえ、税理士にご相談ください。
【出典・参考】
国税庁 タックスアンサー No.4120「相続税がかからない財産」(弔慰金の非課税限度:業務上の死亡は普通給与の3年分、業務外は6か月分)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4120.htm
国税庁 災害関連情報 13 所得税の取り扱い
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/higashinihon/hojin_shohi_gensenFAQ/answer13.htm
相続税法基本通達 3-20(弔慰金等の取扱い)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sozoku/mokuji.htm
所得税基本通達 9-23(葬祭料・香典・災害等の見舞金の非課税)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/04.htm#a-05
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