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創業の基礎知識(法人編)効果的な節税対策
「役員退職金はいくらまで出せるのか」「経費(損金)として認められる適正額の計算方法を知りたい」——広島市内で会社を経営されている社長から、事業承継や引退を控えたタイミングで特に多くいただくご相談です。
役員退職金は、うまく活用すれば会社・受け取る個人の双方で大きな節税効果が見込める一方、金額の決め方を誤ると税務調査で否認され、多額の追徴課税につながるリスクもあります。
本記事では、役員退職金の適正額を計算する代表的な方法である「功績倍率法」を中心に、計算式・倍率の目安・具体的なシミュレーション・注意点まで、広島市安佐南区の吉村税理士事務所がわかりやすく解説します。
目次
役員退職金(役員退職慰労金)とは、取締役や監査役などの役員が退任する際に会社から支給される退職金です。
従業員の退職金と違い、役員退職金は「お手盛り(自分で自分に有利な金額を決めること)」を防ぐため、法人税法上のルールが厳格に定められています。会社の経費(損金)として認められるには、主に次の3つの要件を満たす必要があります。
形式的に退任していても、実態として経営に関与し続けている場合は「退職」と認められないことがあります(後述の分掌変更を含む)。
役員退職金の支給額・支給時期は、株主総会の決議(または定款の定め)によって確定させる必要があります。議事録の整備は必須です。
法人税法第34条第2項では、役員退職金のうち「不相当に高額」な部分は損金に算入できないと定められています。この「適正額」をどう計算するかが、本記事の核心テーマです。
適正額を算定する方法として、実務で最も広く使われているのが「功績倍率法」です。
役員退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
ここで最も注意していただきたいのは、これらの功績倍率は法律で定められた数値ではないという点です。過去の裁判例や税務実務上の慣行から用いられている「目安」であり、絶対的な基準ではありません。
実は、税務調査で適正額が問題になった際、税務署(国税)が用いるのは「平均功績倍率法」という考え方です。これは、同じ地域・同じ業種・同規模の他社(同業類似法人)が実際に支給している役員退職金の水準と比較し、その倍率が妥当かを判断するものです。
つまり功績倍率3.0は「多くのケースで通りやすい目安」ではありますが、広島県内の同業他社の支給実態から大きくかけ離れていれば、3.0でも否認される可能性はゼロではありません。逆に、業績への貢献度が極めて高い創業社長であれば、3.0を超える倍率が認められた裁判例もあります。
なお法人税法施行令第70条第2号では、①役員の業務従事期間、②退職の事情、③同種・類似規模の法人の支給状況等を総合的に勘案して適正額を判断するとされています。功績倍率法は、このうち特に①②③をふまえた見積りの「ものさし」と理解しておくとよいでしょう。
具体的にイメージできるよう、広島市内で製造業を営むA社を例に計算します。広島は自動車関連をはじめ製造業の中小企業が多く、同業類似法人との比較が現実に問題になりやすい地域でもあります。
前提条件
① 適正額(損金算入できる上限の目安)
100万円 × 25年 × 3.0 = 7,500万円
次に、この退職金を受け取る社長個人にかかる税金も見てみましょう。役員退職金は「退職所得」として、給与所得よりもはるかに優遇された計算が適用されます。
② 退職所得控除額
勤続20年超のため: 800万円 + 70万円 ×(25年 - 20年)= 1,150万円
③ 課税対象となる退職所得金額
(7,500万円 - 1,150万円)× 1/2 = 3,175万円
退職所得は他の所得と分けて計算する「分離課税」で、しかも控除後の金額をさらに1/2にできるのが最大の特徴です。
④ おおよその税額
上記3,175万円に対して課税され、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた税額は概算で約1,330万円、手取りは約6,170万円となります。
※2026年時点の税率で計算した概算です。分離課税・他の所得はないものと仮定しています。実際の税額は退職所得以外の所得の有無等により変動します。
もし同じ7,500万円を役員報酬(給与)として支払った場合、所得税・住民税を合わせた最高税率(約55%)に近い負担となり、税金は大きく膨らみます。役員退職金がいかに有利かがお分かりいただけると思います。
功績倍率法で算出した金額を大きく超える退職金を支給すると、超過部分は損金として認められません。
適正額を超えた部分は会社の経費(損金)に算入できず、その分の法人税が課税されます。
たとえば適正額7,500万円のところ1億円を支給した場合、超過分2,500万円は損金不算入となり、会社側では余計な法人税が発生します。一方で、受け取った社長個人は1億円全額に対して退職所得として課税されるため、会社は損金にできないのに個人は課税されるという二重の不利益が生じます。
役員退職金の過大支給は、税務調査で最も指摘されやすい論点の一つです。金額の根拠(功績倍率法による計算過程・同業類似法人との比較)を、あらかじめ書面で残しておくことが重要です。
退職所得の「1/2課税」は非常に有利な制度ですが、例外があります。
役員等としての勤続年数が5年以下の場合、退職所得控除を差し引いた後の金額に1/2を掛ける計算が適用されません(特定役員退職手当等)。
会社設立から短期間で役員退職金を支給しようとするケースや、外部から招いた役員に短期間で退職金を出すケースでは、想定より税負担が重くなることがあるため注意が必要です。
「完全に引退はしないが、経営の第一線からは退く」というケースでも、一定の条件を満たせば退職金を支給し、損金算入できる場合があります(分掌変更に伴う退職金)。
具体的には、次のような実質的に退職したと同視できる事情が必要です(法人税基本通達9-2-32)。
ただし、代表権を維持していたり、実質的に経営を続けていたりすると否認されます。事業承継で会長職に退くようなケースでは、この判断が特に重要になります。
役員が在任中に亡くなった場合の死亡退職金も、功績倍率法により適正額を計算します。加えて、「弔慰金」を別枠で支給できます。
弔慰金には相続税の非課税枠があり、目安は次のとおりです。
この範囲内であれば弔慰金は退職金と区別して扱われ、相続税の対象になりません。
これらの書類が不十分だと、金額が適正でも損金算入を否認されるリスクが高まります。
Q1. 功績倍率3.0は必ず認められますか?
いいえ。3.0はあくまで実務上の目安です。最終的には同業類似法人の支給状況等と比較して判断されるため、業種・規模によっては3.0でも過大とされる可能性があります。
Q2. 役員報酬をゼロにしていた場合、退職金は出せませんか?
最終報酬月額がゼロだと、功績倍率法では適正額もゼロに近づいてしまいます。この場合は「1年当たり平均額法」など別の方法を検討します。退任を見据え、直前に報酬を適正化しておくことも一つの対策です。
Q3. 退職金はいつの事業年度の損金になりますか?
原則として、株主総会の決議により支給額が確定した事業年度に損金算入します(実際に支払った事業年度に損金経理する方法も認められます)。
Q4. 分割払いにできますか?
資金繰りの都合で分割支給することも可能ですが、退職金としての実態や支給時期の管理など税務上の注意点があるため、事前のご相談をおすすめします。
役員退職金は、金額の決め方ひとつで数百万円単位の税負担が変わる、非常にインパクトの大きいテーマです。しかも「不相当に高額」の判断は、御社と同じ広島県内・同業種・同規模の他社の実態をふまえた個別判断が必要になります。
吉村税理士事務所では、法人・個人の双方の税務に対応し、事業承継や社長の勇退に向けた役員退職金の設計・議事録や規程の整備・税務調査を見据えた根拠資料の作成までサポートしています。
広島で役員退職金・事業承継のご相談は、吉村税理士事務所までお問い合わせください。
【執筆者】この記事を書いた人 執筆者:佐々木笙 吉村税理士事務所のスタッフ。お客様に役立つ税金の知識を分かりやすくお伝えします。
【監修者】この記事を監修した人
監修者:吉村 匡史(吉村税理士事務所 代表税理士/税理士登録番号 第135285号) 広島市で税理士事務所を開業して約9年。現在60社の顧問先を担当。
【専門分野】会社設立・創業融資/資金繰り改善/財務コンサルティング
日本政策金融公庫・地元金融機関との連携による創業融資支援を得意とし、 これまでに約50件の創業をサポート。 「数字がわかると、経営判断は驚くほどラクになります。 決算書を”提出するための書類”で終わらせず、次の一手を決める材料に 変えていただくことを大切にしています。」
▶ 吉村匡史のくわしいプロフィールは>>はこちら ▶ YouTubeチャンネル「吉村税理士の【お金の羅針盤】経営者のための税務・会計ガイド」で税金の話を発信中
参考・出典
役員退職金の積立方法|生命保険・共済・内部留保を徹底比較
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